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書評 ルポ 賃金差別 著者 竹信三恵子 ちくま新書

ルポ 賃金差別 著者 竹信三恵子 ちくま新書 

「雇用があるだけましと思え」という無言の圧力の中で、賃金差別について口に出すことが困難な状況に置かれています。竹信さんの最新の著書は、これまで、多くの女性たちを中心に労働組合の支援も得られない中で裁判で闘ってきた女性たちや、雇用確保が優先で意義申し立てさえ出来ない労働者の賃金差別に対する思いを、正社員のみならず、派遣、パート、非常勤、嘱託、下請などなど、多くの証言をもとに、日本の賃金差別=賃金政策を、女性だから、高齢者だから、補助的労働だから、労働時間が短いんだから低賃金でいいと線引きされて賃金格差を社会に納得させてきた実態を明らかにしています。

ACW2の会員では、おなじみの名古屋銀行の坂さん、日産の事務職派遣のAさん、京都女性協会事件の伊藤さん、福岡のパート労働者のBさん、PECOの屋嘉比さん、兼松の賃金差別裁判の原告、住友電工男女賃金差別裁判原告などが登場します。

特に私が印象に残ったのは、若者の闘いの紹介として京大の時間雇用職員のユニオンエクスタシーの裁判の判決文です。その中で、時間雇用職員は、家計補助的労働であるから解雇権乱用に当たらないとし、「京大を卒業した原告らが、すでに説示したような家計補助的労働にしか従事できない客観的、合理的な事情を窺わせるような証拠がなく、原告らが、どのような世界観・人生観の下にこのような就労形態を選択したのか明らかでない」というくだりです。今回、国会を通過した日雇いが許可される例外として、「主たる生計維持者でない、副業、昼の学生、高齢者」などが政令で入れられる方向ですが、まさに「家計補助的労働」と勝手に線引きされて差別を固定化してきた日本の賃金政策が浮き彫りにされる事例です。

現政権下で、多様な正社員、多様な有期労働者等と言われる中で、ディセントワーク、尊厳ある人間らしい労働とは何か賃金差別の構造を振りかえり展望を持つために、多くのみなさんに読んでいただきたい一冊です。

伊藤みどり

カテゴリー 事務局日記

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