韓国女性労働組合は、何故「周辺部」労働者を6000人も組織したのか学べる 評者 伊藤みどり
1999年結成の韓国の女性労働組合は現在6000人を超える。組織されている組合員は「周辺部」労働者といわれる清掃や家事労働、学校の非正規、ゴルフ場のキャディなど非正規、非雇用の労働者が中心だ。 日本でも、最近ようやくの非正規の労働組合も結成されてきたが、ここまで現場の労働者を組織し産業別労働組合としても非正規の女性が中心で力を持っている労働組合は存在しない。
私自身も、女性ユニオン東京を1995年に結成し、韓国の女性労組が結成された直後の1999年秋に「世界女性ユニオン会議」(デンマーク、インド、香港、台湾、韓国、日本)に参加している。それから、ずっと長い交流をして来た。この著書に書かれていることは、知っていることも多かった。しかし、韓国女性労働運動史から韓国女性労働者会の結成、韓国女性労組の結成に至る過程、既存の労働組合との戦略の違いと連携などなど細かく体系的に書かれた内容は知らなかったことも多く学ぶことが多かった。
日本の女性ユニオン及び女性労働運動は、地域を併せても1000人足らずである。男性中心の労働組合運動に対抗し既存の労働組合が取り組まない「性差別の撤廃と女性の労働権の確立、同一価値労働同一賃金」などを目的にしてきた。運営の面でも女性自身の力で女性が中心に運営されていることが大きな特徴であった。どこも結成当時は、大きな広がりを持ち多くの女性からの相談が殺到した。しかし、近年は、女性の貧困化が急速に進み財政的にも圧迫を受け人的にも世代交代にも限界が見えてきているのが現状だ。またナショナルセンターからの支援や既存の労働組合との連携もうまくいっているとはいいがたい。
本書を読めば。韓国女性労働組合が、今も活発に既存の労働組合と連携しながら活動し続けていること。また「現場の労働者のできることを絶対に代行しない」という大原則を貫き、ゴルフ場のキャディ、学校の非正規職、清掃労働者や家事労働者自身が労働組合の組織のリーダーを担っていること。など等、韓国の女性労働組合の魅力を理解できると思う。
著書の問題意識
著者は、本書の問題意識、目的として1990年代以降の韓国において、正規職中心の既存の労働組合の流れとは別に「周辺部」労働者の利害を擁護してきた女性の「独自組織」に焦点を当て、その取り組みを、組織化の側面と、労働組合と社会運動との連携の側面から明らかにすることとしている。 もう一つは、市民運動による労働問題への関与について、貧困、失業、生活賃金、労働者の人権について、これまでの労働研究は、既存の労働組合への取り組みを中心に焦点を置いたものが主流であるが、「周辺部」労働者をめぐる取り組みを考察し、新しい労働運動組織という存在に目を向けると同時に労働組合と社会運動がいかに関係を形成していったのか焦点を当てる必要があると述べている(序章 第1節)
具体的な構成は、女性労働運動の歴史的背景と「独自組織」の分析(第2章、第3章、第4章)、社会的連携の多様性として、「非正規保護法」法制化過程における「周辺部」労働者の利害代表(第5章)最低賃金引き上げをめぐる社会的連携(第6章)となっている。
本書の日本の労働運動への大きな示唆
この著者の問題意識は、そのまま日本の私も同様である。常に労働運動は正社員男性中心であり、パートタイム、細切れ雇用、副業、兼業といった労働問題について女の問題として切り捨ててきた。真剣に取り上げられることは無かった。2008年派遣村の取り組みによってしても男性の失業問題としては社会問題にされたが女性の貧困は見えないままであった。「パートや派遣を女が望んでいる」と言ったのは、企業だけではなく、そうそうたる労働組合の幹部も堂々と言っていたのを忘れない。 「労働運動は男のロマン。女は家にいる方が幸せ」「母ちゃんをキヨスクでパートで働かせなくては生活できなくなった」これらは1990年代までの日本の大組合の幹部の言葉である。性別役割分業を前提にしていたのだ。
最近、ようやく日本の既存の労組も非正規問題を取り上げるようになった。今でこそ、上記の言葉は、笑い話になる。気がついた時は、さらに女性労働の現実は厳しいものになっている。そして相変わらず、女性が中心ではなく男性中心だ。それは、韓国では1997年IMF危機での女性労働者の失業問題を既存の労働運動が取り上げなかったことと似ている。
今年1月、10年ぶりに、私は二つの組織を訪問した。ナショナルセンターへの加盟を検討したが、独自組織のままで当面活動していくと聞いた。やはり日本の女性ユニオンの数倍大きい韓国でさえ性差別の問題は大きいと感じた。
本書では、韓国女性労働者会と韓国女性労組が連携し粘り強く男性中心の既存の労働組合に働きかけ保守的市民団体など多くの団体と目的ごとに丁寧に連携をつくり議論し壁を乗り越こえようと戦略を立て努力していることがわかる。また、働く女性の全国センターが韓国女性労組の教材を参考にして開発した、「対話の土壌をかもすワークショップ」が、何よりも、それらの活動の基盤となっていることにも確信を持てる。
最後に
金さんが、2年前に、韓国の女性労働組合と女性労働者会を研究テーマにまとめたことを知った時、とても嬉しく特別にお願いして博士論文を読ませてもらった。1年間、ACW2の仲間と読書会をして金さんとの対話をして内容について深めることができた。 そして、今回、日本語も、こなれて日本人が読んでもわかりやすく、また二つの団体の個人インタビューも紹介されて、さらにわかりやすいものになった。韓国の労働運動の紹介は様々な人が、これまでも行ってきたが、長期間の取材に基づいて、もっとも必要とされる女性の「周辺部」労働者に届くような言葉で、この本が出たことがとても嬉しい。性差別社会日本、これは韓国でも同じだ。その中で二つのナショナルセンターに挟まれながら今も独自の組織として奮闘している韓国の女性労働運動から日本で学ぶことはたくさんある。
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