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8・26 セクハラ問題に特化して、パープル・ユニオン 結成

*動かす*セクハラ認定 道広げる
2011.06.28 北海道新聞  

 6月」23日、東京・霞が関で開かれた厚生労働省の専門家会議。傍聴席には、道北出身の元派遣社員で、個人加入できる女性のための労働組合「北海道ウイメンズ・ユニオン」組合員の佐藤香さん(43)=東京在住=の姿があった。時折涙ぐみながら、読み上げられる報告書に聞き入った。
 報告書は、セクハラで精神疾患になった人が適切に労災認定を受けられるよう、基準や運用の見直しを求める内容。佐藤さんらの長い取り組みが実を結び、認定の道を広げるものとなった。

*解雇を恐れ我慢 
佐藤さんが通信業大手の道内子会社函館センターに、系列会社から派遣されていた2003年末。派遣先上司からのセクハラが始まった。メールで告白され、食事や旅行にしつこく誘われた。何度も手を握られ、手の甲に唇を押しつけられるなど、行為はエスカレートしていった。
 労働相談の中で、セクハラが占める割合は高い。全国の労働局雇用均等室に10年度に寄せられたセクハラに関する相談は、計1万1749件で全体の50%を占める。特に被害者が非正規や派遣などの場合、雇い止めを恐れ声を上げられないのが実情。一方で加害者は正社員が多く、職場の労組も組合員である加害者をかばう。その結果、泣き寝入りする被害者が後を絶たない。

 佐藤さんも派遣切りを恐れ、加害者の機嫌を損ねないよう神経を使った。遠回しに拒否を続けるうち、今度は嫌がらせが始まった。心療内科で重い精神疾患と診断され、上司や相談窓口に訴えたが何も変わらず、追い詰められた。労災申請しようと訪れた函館労基署も「セクハラの認定は難しい。無理ですから」と、門前払いだった。

 通院先で目にした小さなカードで同ユニオンの函館支部を知ったのが、06年の退職直前。労組に加入すると会社と団体交渉ができ、職場のトラブルの改善要求が可能になると分かった。「(相談窓口の)シャッターがどんどん降りていく中、開いていたのはユニオンだけ。命を拾われた」

*地道な訴え実る 

団交を重ねながら、退職翌年に行った同労基署への労災申請は棄却。不服として行った労働局への審査請求も、東京の労働保険審査会への再審査請求も、ことごとく棄却された。残された道は裁判だけ。昨年1月、国を相手取り、労災不認定の取り消しを求める行政訴訟を東京地裁に起こした。セクハラでは全国初だった。

 「セクハラ被害者の99%は職場を追われる。精神的な後遺症で再就職できず、自殺未遂も少なくない。セクハラは性暴力であり、働く権利だけでなく生存権や人格権も侵す」。同ユニオンの小山洋子委員長は、近藤恵子書記長とセクハラ労働相談の事例を集め、厚労省へ実情説明に通った。全国組織などと連携して衆議院議員会館で集会を開き、議員や官僚に労災認定基準の見直しを訴えた。

 同年11月10日、国は判決を待たず、佐藤さんを労災認定する方針を表明。組合員約60人の小さなユニオンが国を動かした瞬間だった。今回の報告書作りも、これが契機となった。

 佐藤さんは支援者と今秋にも、セクハラを専門に扱う労組「パープルユニオン」を東京で設立する準備を進めている。「ユニオンはずっと寄り添って支えてくれた。被害を受けながら声を上げられなかった多くの人の思いを胸に、私も同じように関わっていきたい」

【写真説明】今秋にも設立する「パープルユニオン」について話し合う佐藤香さん(中央)と小山委員長(右)ら=23日、東京都内

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