労働情報830+831号掲載
http://www.rodojoho.org/
書評
ホームエバー女性労働者たち510日間のストライキの記録 「外泊外伝」
外泊外伝編集委員会 発行現代企画室
伊藤みどり
映画「外泊」を初めて見た時 キム・ミレ監督は、観衆に、「外泊はどんな意味を持っていたと感じましたか?」「民主労総の闘い方についてどう思いましたか?」と質問を投げかけた。その時、「男性」と「女性」の感想が全く違っていた。男性は、どちらかというと「機動隊と激烈に戦う場面に感動した」とか、「韓国はすごい」とか民主労総や韓国労働運動を日本と比較して賛美する感想が多かった。一方 女性の感想は違った。外泊することが女性たちにとって妻役割からの自己解放でもあったことへの共感、民主労総や左派政党の支援のありかたに対する疑問などが上がったと記憶している。
今年、外泊外伝が出版されることとなり、キム・ミレ監督と再会し対談することになった。そのために出版前に送られてきた外泊外伝の原稿を、私は悔いるように一気に読んだ。発刊趣旨は、『「外泊外伝」は、ドイキュメンタリー映画「外泊」の「裏側」あるいは「外側」に目を向けられるためにつくられました。』と書かれている。
外泊外伝は、女性労働者が、企業、社会、家族、労働組合という4重の抑圧の中で自らの雇用を守るために、どのようにもがき苦しみながら闘いぬいたのか、多くの組合員の聞き書きやインタビューなで労働組合のありよう、支援の在り方を振り返っていく。私は、この本の中で、特にキム・ミレ監督が書いている次の言葉に深く共感した「個人よりも組織を優先するべきだという論理。これは自身の状況をよりよく変えていこうとする当事者を後ろで支えるのではなく、自分たちが決めた枠の中へと引きいれるものに見えた・組織の力のために人々を引き入れるか、引き込まれない人々は切り捨てるやり方・・・・真摯さこそがすべてであるかのように、気持ちを分かち合おうとしない支持や連帯が果たしてどれだけ当事者の力になっただろうか。どれだけ有効だっただろうか?」
私が、ここに共感するのは日本の労働組合の多くも同じに思えるからだ。この冊子で初めて知ったのだが、IMF危機の時 現代自動車労組は、整理解雇撤廃のために命を懸けて闘ったという記憶があったが本当は違ったことが分かった。現代自動車労働組合は、整理解雇を277人の解雇を受け入れることで合意し長い過激な闘争を終結させるのだが276人の食堂のパートの解雇を認めることで妥協したのだ。そのことを批判的に描いた映画「飯・花・羊」という映画に対して検閲が入り、韓国の人権映画祭そのものが中止に追い込まれたことを知った。これは、かつて日本の闘う労働組合が企業の整理解雇に対してパートの解雇を「夫に養ってもらえばいいのだ」と正社員の雇用を優先させて終結させた歴史と重なって思えた。こうした出来事の中で、民主労総の激烈なゼネストは以前より効果を失っていったのだということがよくわかった。外泊は、そんな労働組合の男性中心で女性や非正規を運動の軸に据えない代行的な闘争スタイルについて証言をもとに検証する。労働組合に参加するのに夫の許可がいる。勇ましく支援に入ってきた労働組合や政党の幹部たちも自分たちのスタイルに引き込んだだけで闘いの軸になる女性たちの「外泊」の意味を本当に寄り添い後方で支援しなかった。むしろ代行し期待を裏切り撤退した。必要な時だけ、組合員のために「飯」を作らせ、闘いでは目立つから「花」だから女が前にでろといい、しかし女性がリーダーシップをとることを嫌って男性幹部の指示に忠実に動く「羊」。まるで日本の労働運動と同じではないか。私は、外泊外伝を日本の労働組合の男性幹部にこそ読んでほしい。また男女問わず「かわいそうな労働者を救いたい」という労働運動をしている人たちの「支援という名の勘違い」に気がつくためにこの外泊外伝をじっくり読んでほしい。